2004年4月10日

カラフルな三角屋根の並ぶカコトックへ

ナルサスアックから、さらに南の町、カコトックに移動。5日間過ごして、 またナルサスアックに戻る予定。10日間いただけなのに、ナルサスアックを離れると思うと、 離愁(りしゅう)を感じるから不思議だ。

天候は雪まじりの曇り空。 空港で出発を待っていると、ヌークからの便は、天気の回復を待って、 しばらくナルサスアック上空を旋回していたのだけれど、とうとうあきらめてヌークに戻った、 というアナウンスが聞こえた。

見送りに来てくれたJacky(ジャッキー)とHugo(ヒューゴ)が、ヌークからの乗客がこなければ、 カコトックへ乗り継ぐ人がいないから、 人数不足でフライトはキャンセルになると思うよ、と言った。

すると、グリーンランド航空の空港マネージャーのPollas(ポーラス)がやってきて、 「You are so lucky !」、カコトック行きが出るよ、行こう!と言いにきた。

Jacky、Hugoは、不思議なこともあるもんだと首をかしげていた。 来週の再会を約束して、ヘリに乗り込んだ。 中を見渡すと、20人以上の座席に座っているのは、おじさん一人だけ。 あと、スチュワーデスが一人たっていて、どこでも好きなところに座って下さい、という。

上空からは、霧のかかる山々や、切り立った海岸線が見えた。白い海鳥が、時々海を渡っているのも見える。


ナルサスアックからナルサックまで20分間の飛行。
上空から眺めた、海に流れ落ちる滝。


海岸沿いには険しい山々が見えた。

20分ほどの飛行の後、ナルサック空港で、同乗していたおじさんが降りると、 乗客は私一人になった。写真を撮っていると、最高の眺めはここなんだよ、 といってパイロットたちが、コックピットに入れてくれた。 ぐんぐんすべるように海の上を飛ぶのは、まさに空を泳いでいるような感覚だった。


コックピットにて。
無線機のヘッドホンを借り、会話しながら景色を眺めた。

ナルサックからカコトックへは10分。 空からは色とりどりの家々の屋根が美しいカコトックの町が見えた。 着陸し、乗ってきたヘリを手を振って見送ると、Aleqa(アレカ)が出迎えに来てくれた。 「たった一人の乗客なんてはじめてよ!VIPなみじゃない!」と、大らかに笑った。 Aleqaの笑顔は、太陽のようで、エネルギッシュで、いきいきとしていた。 朗らかなよく通る声で流ちょうな英語を話す。英語だけでなく、デンマーク語も、 ドイツ語も、もちろんグリーンランド語も堪能な、語学の天才だった。


上空から見る、人口約3400人の町、Qaqotoq(カコトック)。
南グリーンランドの中心地である。
Qaqotoqとはグリーンランド語で「白」という意味。


無事、カコトックに到着。
カラフルな三角屋根がかわいらしい。


クイヴィットク・その2

夕食は、Aleqaの恋人、デンマーク人のGeorge(ゲール)が作ってくれた。 ローストチキン、黒い色をしたインドの野生種の米、インゲン、ビーンズサラダ、とすごく洗練された味だった。 ゲールは、カコトックの博物館の館長をして、グリーンランドに住んで10年になる。

グリーンランドのことなら何でも聞いて!という二人に早速、クィビトックについて聞いてみた。

昔、今より交通が発達していなかった時代は、人々は小さな共同体(Society)の中で一生を送らざるをえなかった。 そのなかで、人々は罪を犯す(おかす)ことを非常に恐れた。一度罪を犯したものは、 二度と生まれかわることができないと信じられていた。また、罪を犯すということは、 もはや共同体での居場所を失うということだった[キリスト教が伝導されてから、概念が変わった。 キリスト教には懺悔(ざんげ)というものがある]。そのように名誉、信用を失った者の中で、 共同体を捨て、係累(けいるい)一切を捨て、高い山に入った者がいた。それは、生きながら、 死を選ぶことを意味していた。そして、彼らはやがて超自然的な力を得、クイヴィトックになった。 人々が、クィビトックを恐れるのは、彼らの壊れた心のエネルギーが、 彼を疎外(そがい)した共同体にいる人々を傷つけることができるほど強大なものだからだという。

愛した女性に振られて、クィビトックになった男の話を聞いたけど、とAleqaに質問してみると、 女性に振られるということは、小さな共同体の中では、大変不名誉なことだったのだという。 つまり、二人の男が一人の女を求めたとすると、一方が選ばれ、一方は選ばれない。 選ばれなかった男は、一生、敗北者として笑い者にされ、肩身の狭い思いをすることになる。 失恋と同時に共同体での名誉も失うことになるので、それは十分、クィビトックとなる理由に値するのだ、 ということだった。

クィビトックを見たという人々はたくさんいるらしい。 例えば、クィヴィトックは生身の人間に会うことを極端に避けると言われているので、 山で突風のように素早く逃げ去る人影を見た人が、クィヴィトックを見たという証言を残しているという。

    


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