宮下典子隊員の日誌

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2008年2月26日

午後の空港に降り立つと、そこは気持ちのいい寒さで、いよいよ北極圏に近づいてきたのを感じる。気温はマイナス16度。緯度の高い地域に特有のやわらかい光につつまれて、キラキラと雪の輝く地面を歩いていると、ここまでやってきたうれしさに心が躍る。

イエローナイフにはたった一泊しかしないから、どうしてもこの夜オーロラが見たいと思っていた。そうはいってもこればかりは天気と、地球の磁場と、宇宙からの太陽風の加減しだいなのだから、私には願うことしかできない。みんなが寝静まったあとも、作業しながら手を止めては窓から空をのぞき込んだ。まるで待ちわびる手紙を待ってポストを開けるような気持ちで、夜空にオーロラを探した。深夜1時をまわり、メールにこう書いてからパソコンを閉じた。「イエローナイフ、星空ですがオーロラは出ていません。とても残念です。」
なぐさめるつもりでオーロラの写真集をめくりだしたら、かえって逆効果だった。しかし、オーロラについてはいろいろ知ることができた。名付け親はガリレオ・ガリレイだったこと、旧約聖書やフランスの太古の動物壁画にも描かれていること、中国の竜の伝説はオーロラに由来しているという説。イエローナイフのようなオーロラベルトに位置する地域は別として、低緯度の国で目撃することは本当にめずらしいから、写真のない時代、見た人はさぞかし驚いたことだろう。

寝る前に最後、もう一度だけ空を見上げると、天空に青白い大きな帯がかかっていた。オーロラは、あきらめたと思った瞬間に現れた。あわてて暖かい服を着込み、カメラと三脚をつかんで宿の外に飛び出しオーロラの方に暗い方に向かって一心に走った。ゆらめくオーロラは、冷たい空気を奏でる音のない音楽のようだった。

2月26日、旅の出発は誕生日と重なった。生まれてきたこと、そして生きていることに胸がいっぱいの、眠るのがもったいないような夜だった。

宮下 典子

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