2004年3月31日

透明な空気の国

コペンハーゲンを出発して、グリーンランドの南の玄関口、ナルサスワックの空港に飛行機が着陸すると、 乗客が一斉に、パチパチ拍手をした。和やかな雰囲気が広がって、わけもなく笑みがこぼれる。 Airgreenlandの赤い飛行機から地上に降り立つと、まず、ぜんぜん寒くないのに驚いた。 日差しも暖かで、気持ちがいい。大場さんと長谷さんはTシャツ姿だ。 北極圏の国ということで、相当の寒さを覚悟していたから、拍子抜けしたような気分だ。 お土産に頂いた腹巻きや、カイロは、ナルサスアックでは当分休ませておいて良さそうに思えた。

それにしても、身体中に感じる、この清々した爽やかさはなんだろう。 白い雪をいただいた山、流氷の浮かぶ海。目からはいる白とブルーの効果と、肌で感じる空気の清涼さの相互作用なのか。 日本とも違う、東南アジアのスパイシーな匂いとも全く違う、フランクフルトやコペンハーゲンのとも違う、 ただただ、空気そのものの匂いのする国に、初めて出会った。


大荷物の行方

空港には、ナルサスアック・ユースホステルのオーナー、ジャッキーが迎えに来てくれた。 ジャッキーは、フランス人だけれど、もうグリーンランドにきて26年になる。 南グリーンランドでは、アウトフィッターとしてかなり名の知れた人で、 日本にいるときからメールや電話でやりとりをして、準備を協力してもらっていた。

実は、日本を発つ前から懸案だった、氷床縦断の荷物が、予定通りには届かなかったことが分かった。 ここ数週間、グリーンランドの天候不良で空の便が大幅に乱れていた上、 コペンハーゲンとナルサスアックのルートは週一便だけなので、多くの貨物が滞ってしまっていたのだ。 我々の荷物は、ダンボール25箱、総重量570キロ。この引越しなみの大荷物だ。

結局、ナルサスワックに届いた荷物は、ソリの入った大型の箱、2箱だけだった。 この便では、郵便物すら一部積み残したそうで、郵便局もクレームを入れていたという。 乗客は101人乗っていていっぱいな上、貨物のスペースはすべて使い果たした結果の出来事だった。

食料も、装備もなければ、縦断に出発することは出来ない。 初めての国に到着早々のトラブルで、もうほとんどパニック寸前だったけれど、 することは次々にあるから、茫然自失になっている暇はなかった。 とりあえず、ジャッキーのユースホステルに行き、今後の方策を相談することにした。

ちょうどその移動中に、現地コーディネーターの佐紀子さんからジャッキーさんの携帯電話に連絡が入った。 旧姓高田佐紀子さんこと、佐紀子ダオラナさんは、グリーンランド在住の日本人女性で、 イヌイットのご主人と、二人の子供さんと、東海岸のタシラクという村に暮らしている。 佐紀子さんからの電話は、送れなかった荷物をどうするかについてだった。 コペンハーゲンのMAHE FREIGHT(日通の代理店)と相談し、 いくつか案をあげておいたので、検討してみてくれとのことだった。


ユースの近くにあった、岩に彫り込まれた親子と船の彫刻。


「It's Greenland」

シーズンオフのユースホステルには、ほかの宿泊客はいなかったので、 ユース全体を自由に使っていいと、ジャッキーは言ってくれた。 部屋の鍵をもらおうとすると、ジャッキーは、「必要ないと思うよ。 グリーンランドだから。(It's Greenland)」といった。 そういえば、空港でジャッキーの車に手荷物を積んでおいて、少し車を離れるときも、鍵をかけていなかった。 「ここはグリーンランドだから。」そのときも、そう言っていた。

そんな「グリーンランド」って、いったいどんなところなのか、今の私には全然わからない。 26年グリーンランドに住んで、「It's Greenland」と、 当たり前のように言うジャッキーのように早くなりたいという思いが一瞬脳裡をかすめたけれど、 到着1日目の混乱の最中には、そんな日はとんでもなく先で、はるかはるか遠い、 オーロラみたいに手の届かない、幻のようにしか思えなかった。


ユースホステルの全景、裏には山がそびえている。

    


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