2004年4月7日

グリーンランドの犬とアザラシの手袋の関係

ユースの食堂で、Birgitteが毛皮に囲まれて縫い物をしていた。 アザラシの皮の手袋が山のようにできあがっている。 色、形、大きさは様々で、染めていない自然なグレー、真紅、グリーンなど。


ミトンをつくるBirgitte、一組作るのに1時間から3時間かかる。

「縫うの、むずかしい?」
とBirgitteに聞くと、「そんなに難しくないし、ミシンを使うところと手で縫うところがあって、 今日みたいにどんよりとした雨模様の天気の日には、ちょうどいい作業よ。」と彼女はいう。


アザラシの皮、一枚300DKKくらい。

暖かく、毛はツルツルした感触。手のひらの部分も、毛をはいで、なめしたアザラシの皮を使っている。 手首にあたる部分の毛は、北部のグリーンランド・ハスキーのもの。


アザラシの皮とグリーンランド・ハスキーの毛でつくったミトン。

犬ぞりで活躍した犬は、年をとり、衰え、もはやソリが引けなくなると、銃で撃ち殺され、 このように手袋に生まれ変わる。「ヨーロッパの乳牛のようなものね。」とデンマーク生まれのBirgitteはいう。

グリーンランド、ウマナック生まれのArneにこの話をしたら、そうは思わない、と反論が返ってきた。

「グリーンランド・ハスキーは、家畜とは違う。犬ぞりの仕事を全う(まっとう)し、それができなくなると、 毛皮に生まれ変わり、もう一度人間の役に立ってくれる。じつに無駄がないじゃないか。」

ナルサスアックでは犬の散歩をしている人をよく見かける。 知り合いになったHugoとBerthaも2匹飼っている。 先週末、2人と子供たちはスノーモービルで山に遊びに出かけたが、 そのときも犬たちはキャンキャン雪の上を転がり回りながら、あとをついて行った。

「グリーンランドの犬は、いきなりがぶっと噛むから気をつけて。」と大場さんに教わっていたので、 放たれた犬たちを見て、最初は恐れおののいた。 すると、Hugoの犬が私の後ろに回って、おしりの辺りの匂いを、くんくんかぎはじめた。
「はじめて会った人には、かならずそうするんだ。あいさつだから許してあげて。」と苦笑した。

南部には羊の牧場がある。そこでは牧羊犬(ぼくようけん)として働く犬たちもいる。 犬ぞりが生活や狩猟の大事な手段である北部と、犬ぞりが必要ない南部とでは、 犬とのつきあい方もだいぶ違うらしい。


Kaffemik(カフェミック)

4月7日は、Berthaの誕生日。
Brigitteが腕をふるって作ってくれたグリーンランドの新鮮なエビを使ったカレースープを堪能したあと、 カフェミックに行った。Jackyが、Berthaの誕生日だからカフェミックに行こうと言っていたので、 てっきりカフェミックという店があり、そこでパーティがあるのだろうと思っていた。 カフェミックって、かわいらしい名前ね、とBirgitteにいうと、

「何かの単語にミック(mik)をつけると、何かをみんなで一緒に、ていう意味になるのよ。 たとえば、ダンスミックなら、みんなで一緒にダンスを楽しむっていうふうにね。」と教えてくれた。

だからカフェミックならば、みんなで一緒に、お茶を飲んだり、ケーキを食べたり、おしゃべりを楽しむ、 ということだそうだ。

ガタンゴトンと車はゆれて、一軒の民家の前に止まった。窓からはあたたかな灯り(あかり)がもれている。

「ここがカフェミック?」
「そうだよ。Hugoたちの家だよ。」
といってJackyはずんずん家の中に入っていく。

ドアを開けると、中にはHugo、Berthaの家族と、小さな赤ちゃんを連れた若い夫婦がソファでくつろいでいた。 テーブルの上には、飾り付けられたケーキやお菓子が、所狭し(ところせまし)と並べられていた。


手作りのケーキ、若干甘めだったが、とてもおいしかった。

カフェミックとは、場所ではなくて、誕生日に一日中、ドアを開け放して、入れ替わり、立ち替わり、 色んな人が立ち寄っては食べたり飲んだりして祝う、伝統的な習慣なのだという。 本来カフェミックをするのは14歳くらいまでで、37歳になるBerthaは、 本当はカフェミックするには歳をとりすぎているのだけど、おいしいものを食べて、 みんなで集まるのは楽しいからいいの!といって、幸せ満開の笑顔を見せてくれた。

グリーンランド、フランス(Jacky)、デンマーク(Birgitte)、日本と、 さまざまな国の人たちがテーブルを囲んで、まるで国際会議みたいね、とみんなで笑った。

冗談ばかり言いながら語り合っていたら、気がついたらもう時計は零時近くになっていた。 そんな時間でも、子供たちは起きて、一緒に居間でカフェミックしていた。 (翌日がイースターで、学校が休みだからかもしれないけれど)


カフェミック、楽しいひとときを過ごすことができた。

帰りがけにHugoが、いつでもドアは開いているから、遊びに来て、といってくれた。 「明日もカフェミックがあるの?」と聞くと、 はっはっはと笑い、明日はたぶんこの犬の誕生日。あさってはもう一匹の誕生日かもしれない。 いつも誰かの誕生日にして、カフェミックしようか?でも、カフェミックじゃなくても、 寄ってくれていいんだよとBerthaと笑いあっている。

「君が心を開いて、いつも笑って、歩み寄る努力をしていたら、 きっとグリーンランドはそれに応えてくれるよ」というArneの言葉を思い出しながら、夜道を帰路についた。

    


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